妻・みーから「私、うつ病なんだ」と聞いたころ、僕はうつ病についてほとんど何も知りませんでした。好きだったので何とかしたいと思っていた僕は、強い落ち込みや「死にたい」という言葉に直面し、どうすればよいか分からなくなりました。病気について知ることは僕を助けてくれました。でも、そのあとに気づきました。病気について知ることと、目の前の人を知ることは、同じではありません。
TAKEAWAYS
この記事で伝えたいこと
- 病気について正しく知ることは大切
- 知識が支える側の安心につながることもある
- 診断名だけで本人を理解することはできない
- 同じ病名でも、一人ひとり違う
- 本人の希望を聞き、一緒に考えることが大切
- 家庭での経験は福祉支援の土台の一つになった
- 家庭経験だけで専門家になったのではなく、現場で制度・支援・運営を学んだ
- 福祉では「してあげる」より、本人が選べるよう一緒に考えたい
最初の僕は、「うつ病」という病名を見ていた
みーがうつ病だと知ると、僕は「うつ病の人にはこう声をかける」「これは言ってはいけない」「こういうときは休ませる」という情報を探すようになりました。ネットや本の情報は、何も知らなかった僕にとって本当に役に立ちました。病気を知ることは必要でした。
知識は、僕にとって『分からない怖さ』を減らすものだった
うつ病について正しく学ぶことで、少しずつ心に余裕ができました。支える中で疲弊していた僕にとって、これは大きな変化でした。
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知らなかったころと、病気を知ったあとの違い
知識は、すべての正解ではありません。それでも僕の場合は、分からない怖さを少し減らしてくれました。
OPTION 1
知らなかったころの僕
- みーが落ち込む
- 理由が分からない
- 僕が悪いと思う
- 何とかしなきゃと正解を探す
- うまくいかず、さらに不安になる
OPTION 2
病気を知ったあとの僕
- 病気の影響もあるかもしれないと考える
- 一度立ち止まり、本人の様子を見る
- 本人に聞く
- 必要なら医療等へ相談する
- 少し考える余白ができる
知識を増やしても、全部うまくいくわけではなかった
「うつ病の人にはこう接する」と覚えても、みーには合わないことがありました。昨日は良かった声かけが、今日は嫌なこともあります。一人にしてほしい日も、そばにいてほしい日もあります。
知識だけでは、目の前のみーの気持ちまでは分かりませんでした。病気について知ることと、一人の人を知ることは、同じではありません。
『うつ病の人』という一つの型では、その人の全部は分からない
うつ病には医学的な特徴があります。国立精神・神経医療研究センターは、気分の落ち込みや興味の低下だけでなく、睡眠、食欲、疲れやすさなど、さまざまな症状が日常生活に影響すると説明しています。病気を正しく知り、必要な医療へつなぐことは重要です。
一方で、診断名だけでは、その人の好きなもの、嫌いなもの、仕事、家族、考え方、得意・苦手、これまでの人生、これからしたいことまでは分かりません。
みー自身も、『性格なのか、病気なのか』で苦しんでいた
妻本人の文章を読んで、僕が改めて大切だと思った部分です。みー自身、以前は「嫌なことに耐えられない、わがままな自分」だと思い、自分のことが嫌いだったと書いています。自分の状態と向き合う中で、病気だったと認められるようになり、少し気持ちが軽くなったとも書いています。
病気を知ることが、支える僕の安心だけでなく、本人が『全部自分の性格が悪いから』と責めすぎないための見方になる場合もあります。だから、病名を知ることに意味がないとは思っていません。
病名は、その人を理解するための情報の一つ
みーにはうつ病があります。でも、みーはうつ病だけではありません。本人の記録には、明るく元気、好きなことはとことん追求する、人のために何かしたい、仕事が好き、「私らしさ全開」で過ごしたいという姿も書かれています。
MEMO
病名は『その人の一部』
病気であることも、その人らしさも、これまでの経験も、これからの希望も、全部合わせて一人の人です。
病気について知る
- うつ病という診断
- 症状や必要な支援
- 医療へ相談すべき変化
みー自身を知る
- 明るい
- 仕事が好き
- 人を大切にする
- 好きなこと・得意なこと・苦手なこと
これまでと、これから
- これまでの経験
- 大切にしたい人
- これからしたいこと
- 望む暮らしや働き方
『病気だから』と先に答えを決めると、本人が見えなくなる
「うつ病だから働けない」「精神障害だから難しい」「B型利用者だからここまで」「障害があるからこうした方がいい」と、支える側が先に答えを決める。それは本人を理解しているようで、実際には本人へ聞いていないことがあります。
正解を当てるより、『どうしてほしい?』と聞くようになった
「話したい?」「一人にしてほしい?」「何か手伝ってほしい?」「今日はどうしたい?」と聞くようになりました。全部答えられるとは限らず、本人自身にも分からないことがあります。それでも、支える側が全部決めるのではなく、一緒に考える関係へ少しずつ変わりました。
家族は受診や生活を支える存在になれますが、本人と主治医の関係や本人が話せる場を尊重し、家族が前に出すぎないことも大切です。
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僕の支え方は、こう変わった
支える側が正解を持つことより、本人の状態と希望を一緒に確かめることを大切にしています。
OPTION 1
最初
- 病気を知る
- 正解を探す
- 正しい接し方をする
- 自分が本人を良くしようとする
OPTION 2
今
- 病気を知る
- 目の前の本人を見る
- 本人に聞く
- 一緒に考える
- 必要な人につなぐ
- 本人が選ぶ
妻を支えた経験だけで、福祉の専門家になったわけではない
妻を支えた経験があるから福祉の専門家になれた、という話ではありません。僕はその後、未経験で障害福祉業界へ入り、就労移行支援、就労継続支援B型、放課後等デイサービスを経験しました。
仕事として、制度、記録、支援、関係機関との連携、事業運営、スタッフ教育などを学びました。家庭での経験だけでは分からなかったことを、福祉の現場で改めて学んだのです。
それでも、家庭での経験は福祉支援の土台の一つになった
福祉の現場で利用者さんと関わるとき、「妻との関係で学んだことと同じだ」と感じることがありました。病名だけを見て分かったつもりになり、支援者が答えを出すと、本人が置いていかれます。
福祉は『してあげる仕事』ではなく、一緒に考える仕事だと思う
福祉の仕事を知らなかったころ、僕にも「困っている人を助けてあげる仕事」というイメージがありました。でも、支援者が本人の人生の答えを出す仕事ではないと感じています。
厚生労働省の意思決定支援ガイドラインでも、自己決定の尊重を原則とし、本人が理解できるように情報を伝え、本人の意思を確認できるよう工夫する考え方が示されています。
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『してあげる』と『一緒に考える』の違い
本人が考えやすいよう情報や選択肢を整理し、その意思を尊重することを大切にします。
OPTION 1
してあげる支援
- 本人はこうした方がいいと決める
- 支援者の答えで本人を動かす
- 支援した側の達成で終わる
OPTION 2
一緒に考える支援
- 本人はどうしたいかを聞く
- 困りごとと選択肢を整理する
- 必要なところを支える
- 本人が選ぶ
僕が、福祉の仕事で大切だと思う七つの姿勢
福祉に向いている人は、優しい人やコミュニケーションが得意な人だけではないと思います。僕は、次のような姿勢を大切にしています。
MEMO
本人の希望を一緒に考えるための七つの姿勢
家族を支えた経験があれば必ず福祉に向く、という意味ではありません。
まず聞ける
- すぐ答えを言わず、本人の話を聞く
否定から入らない
- 『それは無理』『普通はこう』と決めない
答えを押しつけない
- 自分ならではなく、本人はどうしたいかを考える
分からないことを調べる
- 病気、制度、サービスを知らなければ確認する
失敗したら考え直す
- 本人が悪いで終わらず、自分の関わり方も見直す
小さな変化に気づく
- 数字には出ない変化を見る
チームで考える
- 一人で抱えず、スタッフ、家族、医療、相談支援、関係機関とつながる
家庭で失敗してきたからこそ、分かったこともある
僕は最初から上手にみーを支えられたわけではありません。言い方を間違え、正解を押しつけ、自分が何とかしようとして疲れ、うまくいかないこともありました。だから「こうすれば正解です」とは言えません。
失敗したからこそ、相手を理解したつもりになる怖さを感じています。関係は一回の正解ではなく、何度も話して作っていくものだと学びました。
FLOW
僕たちは、試して、話して、考え直してきた
少しずつ関係を作る。その繰り返しは、家庭でも福祉でも大切だと思っています。
知る
やってみる
うまくいかない
話す
本人の気持ちを聞く
考え直す
またやってみる
人と関わる力は、福祉以外でも使える
人は自分と同じ考えではない。正論だけでは動かない。分かっていてもできないことがある。本人にしか分からないことがあり、自分の考えも間違う。こうした学びを、あえて言うなら僕は『人間力』のようなものだと思っています。
人の話を聞く、決めつけない、相手の希望を知る、一緒に考える、失敗したら修正する。これは福祉だけでなく、会社、家庭、子育て、友人関係、チームマネジメントなど、人と関わる場面で必要だと思います。
支える経験をしてきた人は、福祉で活かせるものがあるかもしれない
家族を支えた経験があるから、必ず福祉に向いているとは言えません。それでも、大切な人との関係で悩み、調べ、失敗し、話し合い、自分の考えを修正し、相手の気持ちを考えた経験は、福祉の仕事でも活かせる可能性があると思っています。
AIの時代だからこそ、情報整理と人との関係を両方使う
AIは、記録、文章、情報整理、制度検索、事務などで福祉現場を助けられると思います。一方で、安心、信頼、関係性、いつもとの小さな違い、本人の言葉を待つ時間などは、数字や文章だけでは表しにくい部分です。
『AIには福祉はできない』と断定するのではなく、AIを使えるところでは使い、関係性を中心とする支援では今後も人の関わりを大切にする。対立ではなく、両方を活かす考え方です。
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AIが支援できることと、人が大切にしたいこと
AIと人を対立させず、それぞれを適切に使います。個人情報の扱いと内容の確認は人が担います。
OPTION 1
AIが支援できること
- 情報整理
- 記録の下書き
- 文章作成
- 制度検索
- 事務の効率化
OPTION 2
人が大切にしたいこと
- 本人と話す
- 表情や変化を見る
- 言葉を待つ
- 信頼を作る
- 一緒に迷う
- 本人の選択を支える
『病名を見るな』ではなく、『病名だけを見るな』
この記事は、病名を無視するという意味ではありません。病気や障害の正しい知識がなければ、本人へ無理をさせ、危険な状態を見逃し、必要な支援を知らないままになることがあります。
病気を知る。制度を知る。そのうえで、病名だけでその人を決めない。これが、僕が一番伝えたいことです。
OUR PRINCIPLE
ゆるサポが大切にしたい支援の考え方
診断名だけで決めつけず、必要な知識も無視せず、本人の選択へつなげます。
みーが教えてくれたこと
僕がうつ病を知るようになったから妻を理解できた、というきれいな話ではありません。今も分からないことはあり、みー自身も自分の気持ちが分からなくなることがあります。以前より変わったのは、分からないときに、勝手に答えを決めなくなったことです。
病気であることも、明るいことも、泣くことも、仕事が好きなことも、得意・苦手があることも、すべてみーです。一つの診断名だけでは説明しません。
僕が福祉の仕事を好きな理由
福祉の仕事には、就職人数、工賃、利用人数、稼働率など大切な数字があります。僕自身、事業運営にも関わっています。でも、それだけではありません。
昨日より少し話せた。自分から相談できた。『これをやってみたい』と言えた。自分で選べた。誰かを信頼できた。僕は、数字だけでは見えにくい変化に、この仕事のすごさを感じています。
福祉の仕事を考えている人へ
福祉の仕事に少し興味を持ったなら、最初から全部を知っている必要はありません。僕も未経験から入りました。分からないことを知ろうとする。本人の話を聞く。考えを押しつけない。失敗したら考え直す。一人で抱えずチームで考える。そういう姿勢を大切にしたいと思っています。
SUMMARY
この記事のまとめ
- 僕は最初、うつ病をほとんど知らず、好きだから何とかしたいと考えていました。
- 妻の状態に戸惑い、支える側も疲弊しました。
- うつ病について学ぶことで、僕には少し考える余白ができました。
- 知識は大切ですが、知識だけでは妻本人の気持ちは分かりませんでした。
- 妻自身も、性格なのか病気なのか分からず、自分を責めていた時期がありました。
- 病気を知ることで、自分を責めすぎなくて済むこともあります。
- 一方で、病名だけで本人の性格、希望、できることを決めてはいけません。
- 本人へ聞き、選択肢を整理し、一緒に考えることを大切にします。
- 家庭での試行錯誤は、僕が福祉で働くうえでの土台の一つになりました。
- 家庭経験だけで専門家になったのではなく、現場で制度、記録、支援、連携、運営を学びました。
- AIによる情報整理と、人との関係を中心にした支援を対立させず、両方を活かします。
- この記事の結論は、「病名を見るな」ではなく「病名だけを見るな」です。
知ることで、選べるようになる
妻がうつ病だと知ったころ、僕は正解を知ればうまく支えられると思い、「うつ病とは」「どう接する」「何を言ってはいけない」と病名を見ていました。でも、正解は本の中だけにはありませんでした。目の前にいるみーと話し、失敗し、考え、また話す。その繰り返しで、少しずつ、みーという人を知っていきました。
福祉の仕事へ入ってからも、同じことを学びました。診断名、障害特性、制度、専門知識は大切です。それでも、最後に向き合うのは一人の人です。何が好きか、何が苦手か、何を怖いと思うか、どう暮らし、どう働きたいかを聞きます。
支える側や支援する側が、すべての答えを持っているわけではありません。だから、聞く。一緒に考える。必要なら調べ、人につなぐ。そして、本人が選ぶ。病気を知る。制度を知る。そして、その人を知る。僕は、その順番を大切にしていきたいと思っています。
参考にした公的情報
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